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BRICS加盟国から考える、今後のタイの経済成長

BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)は2024~2025年にかけて拡大し、エジプト、エチオピア、イラン、UAE、そして2025年にはインドネシアが加わるなど、存在感を一段と強めています。
タイは2025年1月から「BRICSパートナーカントリー」となり、首脳級会合や作業部会に恒常参加する枠組みを獲得、近い将来の正規加盟に向けた意欲も公的に表明しています。(タイ外務省、CFR)

1. タイとBRICSの「現在地」――フルメンバーではなくパートナー

2024年末、ロシア(議長国)からの通知を受け、タイは2025年1月1日付でBRICSパートナー国となりました。これは新設の協力カテゴリーで、首脳会議や一部の政策対話・プロジェクトに参加できるステータスです。(タイ外務省)
さらに2025年4月の外相会合でも、タイは「できるだけ早い正規加盟」の意思を再確認しています。(タイ外務省)
一方、BRICS本体は拡大を続け、インドネシアの正式加盟が2025年に承認されています。(ロイター)

2. なぜタイはBRICSに近づくのか――三つの戦略動機

  1. サプライチェーンの再編に備えるリスク分散
    中国・インド・中東(UAE、サウジ)など、成長力のある新興市場との経済関係を制度的に強化し、貿易・投資のルートを多重化する狙い。
  2. 決済・金融面の選択肢拡大
    BRICSは「単一通貨」よりも、自国通貨建て貿易越境決済ネットワークの整備に重点を移しつつあります。これは外貨調達や為替変動への耐性を高める可能性があるため、タイにとって実務的メリットが大きい。(OMFIF、Economic Times、EBC)
  3. 資金動員の新たな窓口
    新開発銀行(NDB)や加盟諸国の政府系ファンドと連動した、インフラ・グリーン投資の呼び込みを意識。

3. 「デドル化」ではなく「多通貨化」へ――決済アーキテクチャの実像

2025年の首脳会合後も、BRICSは共通通貨の創設ではなく、ローカル通貨建て貿易の拡大越境決済の相互接続(いわゆる「BRICS Pay」構想やCBDC連携試行)を優先しています。
実務面では人民元(RMB)の利用比率がブロック内で拡大している一方、世界全体の送金に占める比率は依然低く、多通貨・多仕組みの共存が現実的な落としどころです。(OMFIF、EBC、Economic Times)

4. タイ経済への波及経路――実務的メリットと即効性

  • 貿易決済コストの逓減余地
    原材料・中間財や観光収入の一部でローカル通貨建てが拡大すると、為替ヘッジコストの抑制やキャッシュフロー安定化に寄与。
  • 観光・サービス収入の底上げ
    BRICS域内(特に中国・インド・中東)からの旅行者回復が続く限り、決済の利便性向上が実入りの改善に直結。
  • 産業投資と共同研究の機会
    EV、半導体組立、デジタルヘルス、農産加工等で、BRICS内資本・研究機関との連携案件が増える可能性。

5. 同時に無視できないリスク――対外関係と制裁・関税の尾リスク

地政学の分断が進む中、BRICSに「近づく」動きは、西側主要市場との関係悪化という副作用を伴いかねません。
2025年には米国側からBRICS諸国に対する広範な関税示唆もみられ、サプライチェーンの再設計や輸出市場の分散は不可逆な課題です。(ロイター)
タイ国内でも、BRICS正規加盟による外交・通商上の負の波及を懸念する見解が紹介されています。(The Nation Thailand)

6. セクター別の含意――「攻め」と「守り」の整理

6-1. 観光・小売・決済

中国・インド・中東からの旅行需要は、ローカル通貨決済と入出国の利便性改善が進むほど取り込みやすくなります。決済ゲートウェイやフィンテックにとっては、多通貨・多ネット接続が競争力の源泉に。

6-2. 製造業(自動車・電機・部材)

EEC(東部経済回廊)を基盤に、インド・中東とのサプライチェーン連結が強化されるシナリオ。輸出市場の再配分と同時に、関税リスクの迂回戦略(現地化、第三国経由、原産地規則対応)が経営の肝に。

6-3. エネルギー・グリーン投資

UAE・サウジなど資本国とのパートナーシップは、再エネ・水素・アモニア・スマートグリッド等の案件創出につながりやすい。NDBや二国間ファンドの活用余地も大。

6-4. 金融・資本市場

ローカル通貨建て社債、サステナブルボンド、クロスボーダーETFなど商品開発機会が拡大。ただし米欧の規制動向・制裁ルールとの整合がコンプライアンス負荷を押し上げる点に注意。

7. マクロ見通し――「多極化のメリット」を実体経済に落とせるか

BRICS周辺に接近することは、為替・貿易金融・観光収入の多様化というプラスをもたらし得ます。一方で、主要先進国向け輸出の摩擦や関税リスクは無視できません。鍵は、市場の二者択一を避ける「多元接続」の巧拙です。
タイ政府は2025年以降、BRICS枠組みを「補助線」として使いながら、日米欧・ASEAN域内・中東・インドを同時接続する戦略が妥当でしょう。

8. 企業・投資家の実務アクション

  • 決済と為替の再設計:人民元・ルピー・ディルハム等の受払フローを試験運用し、ヘッジ方針(先物・NDF・ナチュラルヘッジ)をアップデート。
  • 原産地戦略の再点検:原産地規則対応・現地化率の引き上げで、関税・制裁の尾リスクを低減。
  • 資金調達の複線化:NDBや湾岸系投資のパイプを調査。サステナブルボンド、トランジション・ファイナンスの適用を検討。
  • 観光・小売は決済UX重視:多通貨・QR相互運用に対応し、言語・税還付・本人確認を一体運用。

9. シナリオ別アウトルック(2026~2030)

  1. ベースケース(確率中):タイはパートナー枠を活用し、域内決済と観光収入の回復で実質成長率を底上げ。対米欧は現状維持~漸進。
  2. アップサイド(確率やや低):正規加盟→NDB経由の大型投資誘致が加速。EECにEV・蓄電・半導体後工程の大型案件が集積。
  3. ダウンサイド(確率中):関税・制裁の波及や物流遮断で輸出が毀損。通貨・資金調達に断続的なボラティリティ。

10. まとめ――「多通貨・多市場・多仕組み」を使いこなす

タイにとってBRICSは、西側と対立する“選択”ではなく、多極化を味方につける“接続インフラ”として活用すべき枠組みです。
共通通貨の夢に飛びつくのではなく、ローカル通貨建て・越境決済の実務を磨き、NDBや湾岸資本の呼び水にしつつ、米欧・日本との制度互換性を失わない――その「両利きの設計」が、タイ経済の次の成長局面を開きます。


【出典・参考】
・タイ外務省:2025年1月からのBRICSパートナーカントリー化、正規加盟意欲の表明。外務省発表外相声明
・CFR(米外交評議会):2024年サミットで新設された「パートナー国」枠と初期指定国。(CFR背景解説)
・ロイター:インドネシアのBRICS正式加盟(2025年1月)。(Reuters)
・OMFIF:BRICS内のローカル通貨利用と実務的到達点。(OMFIF論考)
・Economic Times:BRICS越境決済システム協議。(Economic Times)
・EBC/InvestingNews:共通通貨ではなくローカル通貨決済・BRICS Pay優先の流れ。(EBC特集、INN)
・The Nation Thailand:加盟に伴う通商上の懸念。(The Nation)

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